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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1949号 判決 1969年11月21日

理由

控訴人ら主張の請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。《証拠》を総合すると、次の事実を認定することができる。

控訴人亀三郎は昭和三六年六月一〇日ごろ、婿養子の控訴人仙太郎のために同人の事業資金として被控訴人から継続的に融資を受けることを承諾し、訴外山下宮子に対し右融資に関する包括的代理権を与え、じらい山下は控訴人仙太郎から依頼される度に控訴人亀三郎の代理人として被控訴人から金員を借受けていた。かかる方法で被控訴人は同日以降控訴人亀三郎に対し仙太郎および山下の連帯保証のもとに、利息は月三分として毎月末(ただし月半ばで弁済期を更新するときはそのとき)にその月分を支払う約定で、弁済期をおおむね二カ月又は三カ月先に定めて継続的に貸付を行ない、その間弁済を受けたり、利息の支払を受けて弁済期を更新したりしてきた。昭和三八年七月上旬当時においては、同年六月一〇日に弁済期を同年八月一〇日と更新した金五〇万円(同三六年一〇月一〇日ころの貸付)、金一〇万円(同三八年二月一九日ころの貸付)および金五万円(同三七年六月ころから同年九月ころの間の貸付)の貸金各一口のほか、同三八年五月三一日に弁済期を同年八月三一日と更新した金五万円の貸金一口(前記五万円の貸付と同じころの貸付)が残つていたが、被控訴人はそのころ控訴人に対し、これらの貸金を取りまとめて、公正証書を作成することを要求した。控訴人らはこれに応じ、右四口の貸金を合わせて金七〇万円の準消費貸借に改め内金六五万円を同年八月一〇日に、残金五万円を同月三〇日に各支払う、利息は約定の範囲内で毎月三〇日にその月分を支払う、元利金の不履行のときは強制執行を認諾する旨を諒解したうえ、委任状(甲第二号証の一、ただし、代理人の氏名、貸付日、利息およびその支払方法についての記載のないもの)に控訴人仙太郎は連帯保証人として署名押印し、控訴人亀三郎は主債務者として自身で押印し、これを印鑑証明書とともに被控訴人に交付した。そこで被控訴人は訴外森岡太良を控訴人らの代理人に選任し、同代理人において右委任状に代理人の氏名のほか、「貸付日昭和参拾六年六月拾日」、「利息及その支払方法」の下に「年壱割八分とし毎月三十日その月分を支払う」の各記載を補充して公正証書の作成を嘱託し、同年八月一六日前記貸金合計金七〇万円を準消費貸借の目的として冒頭認定のごとき内容の本件公正証書が作成された。

《証拠》中、右認定に反する部分は信用できないし、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

そうすると、代理人の氏名を白紙とする前記委任状の交付は本件公正証書の作成嘱託について控訴人らの代理人を選任する権限を被控訴人に付与したものと解されるのであつて、当事者間に上記認定のごとき諒解が成立している以上、被控訴人によつて選任された森岡太良は該諒解事項を公正証書とするについて控訴人らを代理する権限を有するものというべきである。森岡太良を無権代理人という控訴人らの主張は理由がない。

もつとも、本件公正証書記載の貸付日の記載が事実に吻合しないことは、上叙説示に照して明らかであるけれども、被控訴人が昭和三六年六月一〇日にはじまる継続的な金銭貸借関係の取りまとめとして、本件公正証書の作成された時点において、上記のごとき態様の金七〇万円の準消費貸借上の貸金債権を有することに徴すれば、本件公正証書に表示せられた請求権の記載は全体として当事者間の債権関係に適合し、その同一性を認識しうるものというべきであるから、本件公正証書は債務名義として有効である。この点に関する控訴人らの主張は理由がない。

さらに、利息の記載の補充についてみるに、控訴人らの代理人森岡太良が当事者間の月三分の約定の範囲内で利息を年一割八分と補充したことは、なんら不当ではない。しかし、本件公正証書に表示されている金七〇万円の準消費貸借はそれが作成された昭和三八年七月一六日に成立したものであるから、それ以前、すなわち、本件公正証書に貸付日とされている昭和三六年六月一〇日から同三八年七月一五日までの間は、右準消費貸借上の貸金債権に対する利息は発生するに由ないものというべきである。

以上の次第で、控訴人らの本訴請求は、右の限度において理由があるが、その他の部分については理由がない。

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